一度読んだ本を、読み返すことはあまりしませんが、この本は、何度か読み返しています。
著者は、日比谷パーク法律事務所代表の久保利英明弁護士。
企業が選ぶ弁護士ランキングで1位に選ばれたこともある実力者で、
法曹界において、知らない者はいないほどの超有名人。
以前、久保利弁護士の密着取材の番組を見ました。
現在の株主総会の進行方法は、久保利方式と呼ばれ、久保利弁護士が考案したもので、
総会屋対策の有効な手段の1つとして、多くの企業で採用されていった経緯があります。
ド派手なスーツにショッキングカラーのネクタイ、そしてガングロに口髭、
さらには防弾チョッキを着て株主総会に出席する姿は、とても衝撃的でした。
私は自分の投資先の株主総会には、極力出るようにしていますが、
その投資先の会社の監査役が、久保利弁護士でした。
当時は、株主総会の後に、立食の懇親会のようなものがありました。
そこで何度か話しかけようとして近づいたことがありましたが、
あまりの雰囲気に圧倒され、未実現のまま終わりました。
5年ほど前に、この本が出た時、すぐに買って読みました。
一般的な交渉術の本は、いかに交渉に勝ち、相手をやっつけるか。
そして、利得を大きくするにはどうすべきか、というテクニックが強調されています。
しかし、この本では、大局的な視点から、交渉のあり方、その持つ意味を説いています。
人生で勝ち続けることなどありえないし、負けを覚悟した交渉で
起死回生の大逆転をしたこともあったし、負けられないと力んだ交渉で、
逆に相手を追い詰めすぎて、負けてしまったこともあったそうです。
いっぽうで、その勝った相手が、交渉に勝ったことで有頂天になり、
失敗を犯し、谷底へ転落し、没落の一途を辿り、また反対に負けた方は、
負けたことで、改善に目覚め、急成長したこともあったそうです。
何が、勝ちで負けかは、一概には言い切れないことが分かります。
すべてに勝つこともできなければ、すべてにおいて勝つ必要もなく、
自分が何を求めるのかを見極めることこそが重要と言います。
平和主義とか争いを避けるというわけではなく、逆になんでも好戦的にいくのでもなく、
時には引くことや、どうでもいいことには逃げる勇気や、相手にしない、
といった発想も持つべきで、そのうえでの交渉力なんだと思いました。
武田信玄の言葉に、
「およそ軍勝五分をもって上となし、七分をもって中となし、十分をもって下と為す。」
とあります。
弁護士が書いた交渉の本で、交渉に勝つ以外の視点で書いているところが、
とても新鮮でかつ斬新で、ふとした時に読み返しています。