コラム

ウサギの目が赤い理由 ♯3

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6,7年前に、ある企画に参加しました。
自由参加で短編物語を書き、一定数集まったら、書籍化するという企画。
物語を書くにあたって、1つだけ条件がありました。
それは、「ウサギの目が赤いのは、感動の涙が止まらないから」というもの。
結局、その企画自体は、頓挫したようですが、私は当時、4つほど書きました。
最近、机の引き出しから出てきたので、懐かしさ恥ずかしさもありますが、掲載します。

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『………………。』

カズオは、ある決断に迫られていた…。

小さな町工場を営む父は、息子には、こんな大変な思いはさせたくないと、
幼いころから「勉強しろー、勉強しろー」
いい大学に入って、「サラリーマンになれ~、なれ~」
と口を開けばそう言った。

家計は正直、苦しかったが、カズオは父を反面教師に、
必死になって勉強し、希望の大学にストレートで入ることができた。

大学卒業後、都市銀行に入行した。
その後、結婚し、家庭をもちローンを組み、住宅ローン控除の適用を受け、
一軒家まで手に入れることができた。

そんな矢先の悲報だった!
父が心筋梗塞で亡くなった、と電話口で母が泣きじゃくっていた。

父が、創業した町工場が気になった。
孫を見せに帰省するたび、町工場は、縮小しているようだったが、
なんとか他人様に迷惑をかけない程度に、頑張っていた。

残された従業員たちも、父と創業以来の古参であったが、
実質は、年金生活者ばかりであった。

お通夜のあと、ひっそりと沈みかえった会場で、従業員たちと話し込んだ。
「お父さん、立派だったよ…。ホント立派な人だったよ…。」

従業員たちは、異口同音、その死を悲しんでくれた。
父が一番頼りにしていた、専務の半田さんが、
唐突に明るいトーンで話し始めた。
『カズオさん!社長の長年の夢…、知ってるかい??』

首を横にふる私に言った。
『この町工場で働く人たちの技術をしっかりと受け継いでもらいたい。
そして、技術をもった人たちが経済的に恵まれるような環境を作りたい。
社長は、努力した人が報われる社会を実現したい、常々そう言っていたんだよ…。』

私には、初めて聞かされる話だった。
子供である自分には、そういった話は一切せず、
サラリーマンになれとしか言わなかった父。

愛情ゆえとは、わかっていても、寂しさが胸に残った。
と同時に、夢半ばで、この世を去った父が無念でならなかった。

数日考え、結論を出した。
私は妻と子どもに自分が決断した、
これからの道を素直に話した。

予想に反し、あっさりと受け入れてもらえた。
こっちが拍子抜けしたほどだった。

意を決し、住宅という財産を売り払った。
父が残してくれた壮大なスケールの『夢』、
という財産を引き継ぐために…(しかも非課税)。

それからして。
私たちは技術者を養成し、その技術を継承させ、
仕事の斡旋も行うパイプラインとしての専門学校を作った。

学校法人としての認可も取得できた。
父の干支が、ウサギだったということもあり、
イメージキャラクターは、ウサギにした。

社名は、『ラビット・カンパニー』。
その日、ウサギがデザインされた、名入りの看板が設置された。

私は、妻と子どもを両脇に、まばゆいばかりの看板を見上げ、
そしてつぶやいた。

父さん!父さんの壮大な夢やアイデアは、永遠に生き続けるよ!
これからも天国で見守っててください!

看板に描かれた、ウサギの目から一筋のしずくが流れ落ちた…。
その日から、ウサギの目は真っ赤なままになりました…。

    

(  完  )

(この話はフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。)
http://blog.goo.ne.jp/mentor1100/d/20060101
このコンセプトに触発され、考えました。

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