コラム

熔ける

「 熔ける 読みました?」

昨秋、とある知り合いの男性から、突然、質問を受けました。
私は、その本は買ってはいましたが、未読でした。
「面白いので、早く読んだ方がいいですよ。」と薦められました。

彼いわく、自分は普段まったく本を読まないけれど、著者とは面識があったこともあり、
この本だけは、発売と同時に手に取り、一気に読了してしまったそうです。

20年近く前に、高時給だったという理由で、彼は新橋の某店に従業員として働いていました。
そこに、大王製紙の当時副社長であった井川意高氏が、複数の芸能人などと一緒に、
常連として顔を出すようになり、知り合いになったそうです。

最近、私も読了しました。
「 熔ける-大王製紙前会長井川意高の懺悔録- 」

世間を賑わせた事件だけに、興味深く一気に読了できました。
そして、懺悔録というタイトルがつくだけあった、暴露本のような趣があり、
ところどころで芸能人の実名が飛び出し、ハラハラします。
・順不同&敬称略
山下智久、大島麻衣、高岡早紀、岩佐真悠子、紺野あさ美、宮沢りえ、ほしのあき、二谷友里恵、東尾修、
市川海老蔵、ホリエモン、伊藤英明、矢吹春菜、安藤沙耶香、池田夏希、梅田えりか、
尾崎ナナ、小田あさ美、加藤晶子、加藤ミリヤ、国分佐智子、田丸麻紀、瀬戸早妃、辰巳奈都子。

前半は、井川家の勃興から、自身の生い立ち、代表取締役就任までの
大王製紙の事業の趨勢について堅い筆致で紙面が割かれ、
後半は同じ本とは思えないほどの真逆な内容で、芸能人との交遊や
バカラ賭博にはまり子会社から106億8,000円の不正融資を受け、
逮捕されるまでに至った経緯について、独白しています。

多少の言い訳めいた印象を残すページもありましたが、しかし、全体的には大王製紙や自分自身、
そして井川家のことを冷静かつ客観的に分析され、しかも豊富な語彙力で、
論理的に記述されている文章構成には、ただただ舌を巻くばかりでした。

私がこの本を手に取る前に、最も知りたかったことは、ただ1つ。
芸能人との裏話や、どうやって子会社から106億8,000万円の融資を
引っ張ってこれたのか?といったことではありません。

最も知りたかったことは、筑波大学附属駒場中学→筑波大学附属駒場高校→東大法学部(現役合格)
一般的に日本で、超エリートといわれる過程を経たなかで、それなりの頭脳は持っているであろう人が、
なぜ106億8,000万円まで突っ込んで、カジノに溺れてしまったのか?
その原因が知りたいと思いました。

本人も書籍の中で、なぜ、自分が巨額資産をカジノへ投じてしまったのか?
について何度も首を捻る記述が出てきます。

父親から必要以上に厳しく育てられた反動。
長男という立場から生まれながらにして大王製紙を引き継ぐ運命を負わされていたことへの反発。
上場会社社長という非常にストレスの多い役職からの逃避。
関連会社の株式を保有しており、売却すればいつでも巨額の資金に目途がつくという慢心。

そのうちのどれかだとすると、例えば、厳しく育てられた子どもはギャンブルにはまりやすいのか?
と問われれば違うと思いますし、同じように、事業承継する子ども、
上場会社の社長や資産家の息子らは、必ずしもバクチにはまるわけではないとも思います。

私は、悶々とこの謎が溶解しないまま読み終えようかとした矢先、
もっとも納得できる文章に出会いました。

「ギャンブル依存症」は病気である、という記述です。

WHO(世界保健機関)は国際疾病分類に「病的賭博」という項目を設けているそうで、
アメリカ精神医学会が定めるDSM(精神疾患の分類と診断の手引き)にも、
ギャンブル依存症の定義があるそうです。

ギャンブル依存症は、癖ではなく病気であり、10項目の特徴が挙げられています。
(1)賭博にとらわれている
(2)興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をしたい
(3)賭博を抑える、減らす、やめるなどの努力を繰り返し、成功しなかったことがある
(4)賭博を減らしたりやめたりすると、落ち着かなくなる。またはイライラする
(5)問題から逃避する手段として、または不快な気分を解消する手段として賭博をする
(6)賭博で金をすったあと、別の日に取り戻しに返ってくることが多い
(7)賭博へののめりこみを隠すために、家族、治療者、またはそれ以外の人に嘘をつく
(8)賭博の資金を得るために、偽造、詐欺、窃盗、横領などの非合法的行為に手を染めたことがある
(9)賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある
(10)賭博によって引き起こされた絶望的な経済状態を救うために、他人にカネを出してくれるように頼る

井川意高氏は、(3)~(5)のみ当てはまらず、しかも(1)、(8)、(9)はまさにドンピシャだそうです。
この章を読んで、謎がすべて熔けた気がしました。

読了後、蛭子能収氏のエピソードを思い出しました。
過去に賭博で逮捕されたとき、蛭子能収氏が警察に言った一言。

もうギャンブルはしません。賭けてもいいです。

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