コラム

東野圭吾と節税と

突然ですが、東野圭吾さんの短編集『超・殺人事件-推理作家の苦悩』(新潮文庫)という作品をご存知でしょうか?
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読むと、思わずニヤリとしてしまうこと、うけあいなのですが、中でも「超税金対策殺人事件」は必読です。
主人公の作家が急に売れてしまって、税理士に示された多額の税金に慌てふためくところから、話はスタートします。

なんとかしてくれー!

と頭を抱えるのですが、税理士は「なんか他に、経費計上できそうな領収証ないですか!?」と言ってきます。
困った(!?)ことに、主人公の作家は、領収証がありません。

こりやぁ、マズイ!!

と、プライベートで行ったハワイ旅行だとか、妻の実家でかかった風呂場の修理代だとか、
趣味で買った骨董品だとか、を全部引っ張り出してきて、そして、なんとか費用に計上すべく、
今書いている小説にすべて盛り込んでいきます。

小説として書いているのだから、すべて必要経費として認められるだろう!?
と万歳三唱し、祝杯をあげて確定申告書を提出します。

しかし結果は、税務署から呼び出しがかかり、それらの費用の多くは否認され、多額の税金を納めるばかりか、
急場でいろいろと小説に盛り込んでいたために、小説じたいがつまらなくなり、連載が打ち切られ、
挙句の果てには、どこの出版社からも、声がかからなくなる…、といった後味の悪~い感じで、小説は終わります。
(※それ以外にも面白い話が載っているので、ぜひ、ご一読ください。)

他人がとった行動に対して、私たちは割と、客観的かつ冷静に判断できますが、
いざ自分のこととなると、話は違ってきます。まったく見えなくなってしまうのが人の性です。
こういう話は、ヒジョ~によくあるように思えてなりません。

たとえば、雇用助成金を受けたいがために、その要件に合致した人を採用したはいいが、
まったく自社に適していない人材であったケースや、ポイントがつく買い物で、結局、無駄買いをしてしまうことや、
配当や株主優待が欲しいからと購入した割高な株価の大幅な下落に悩まされたり、
節税になるからと買ったり、建てたりしたマンションの立地が悪く、空室が目立ち、地価そのものが下落したりするなど、
日常、いろいろな場面で、本末転倒な事象が起きているように思います。

人は得てして、細かく、分かりやすく、簡単な部分に目を奪われ、本質を見失います。
特に節税に関してはこれが顕著で、「全体を抑えながら部分を抑えていく」視点が大事です。

策士策に溺れることなく、多面的に物事を見て判断していきたいものです。
自戒を込めて。

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