楽天は、個人的に関心が高いです。
ふだん利用するネット通販のうち、楽天の活用度合いは決して低くありません。
また、楽天市場に出店している顧問先が数店あり、その中には、
売上で上位に入るシェアを持っている会社もあります。
さらには、楽天がTBS買収問題で世間を賑わせた時、楽天の株主総会が
大荒れになる、との予測から、権利確定直前に楽天の株式を取得し、
株主総会に出席した記憶があります。
その時は箝口令が敷かれ、マスコミ関係者シャットアウトで、
物々しい雰囲気で株主総会は始まりましましたが、株主からの
辛口な質問が出た程度で、特に混乱する様子もなく、
アッサリと終わり、肩透かしを食らったことを覚えています。
もう一つ言うならば、私が初めてTV出演し、共演させていただいたスターが、
川平慈英氏であり、彼は、現在、楽天カードマンの戦隊キャラで、
お茶の間のハートを鷲掴みしつつあるのは周知のとおりです。
戦後の名経営者ベスト3が、松下幸之助、本田宗一郎、井深大、
だとするならば、その後の名経営者ベスト3は、
孫正義、柳井正、そして三木谷浩史であることは、異論のないところです。
その三木谷浩史擁する楽天がどのような軌跡を辿ったのか?
日経新聞の記者が綴った手記が、本書です。
「ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦」
大西 康之 (著)
ファースト・ペンギンとは、ペンギンの習性を表した例えで、
ペンギンは、集団行動のなか、なかなか行動を起こさない、
特に警戒心の強い動物に数えられますが、しかし、その中でも、
いの 一番に行動するペンギンが必ずいて、先行利益を得、
そして、その後、残りのペンギンが、いっせいに続きます。
楽天の三木谷浩史氏を、このファーストペンギンのように、
常に時代に先駆けて行動し、成功を得てきた、ということを表現しています。
提灯記事のような記述がところどころあり、そして、楽天は、まだ
発展途上の会社であって、現時点では評価しきれないところがあるのは否めません。
しかし、マスコミを通じて知られてきた楽天や三木谷浩史像とは、
一味違う側面をこの本は提供しています。
三木谷氏は、一橋大から興銀(現・みずほ銀行)に入行し、
その後、ハーバードへ行費で留学してMBAを取得。
興銀とは、日本興業銀行のことを指し、一昔前のブランド企業の象徴で、
名門大学の中でも、特別意識の高い優秀な学生が集まる、
難関企業の最たる先と言われていました(※)。
※参考文献:
「ビジネスエリートへのキャリア戦略」
(著)渡辺秀和
学生やサラリーマン時代の経歴を見ると、エリートコース一直線
に見えますが、決してそうではありません。
三木谷浩史氏は三人兄弟の末っ子で、姉は医者、兄は東大、しかし
自分は私立の中学を中途退学し、高校卒業後は、当初、料理好きなため、
料理の専門学校に行くことを真剣に考えていました。
しかし、あるキッカケで、一橋大学に行きたい!と覚醒し、一浪ののち、合格。
なぜ、大学受験すら真剣に考えていなかった彼が、急に目覚め、
猛勉強のスイッチが入ったのか?本書で明らかにしています。
そして、高校・大学と、テニスに打ち込み、その打ち込み方が、
尋常じゃない力の入れようだったため、「一橋大テニス部の三木谷」
と言えば、知らない者はいないほど、大学はおろか、東大などの他大学、
そして、各企業の採用担当などにも有名でした。
興銀などの役員や上層部にテニス愛好家が多数おり、テニスを通じて
可愛がられるようになった経緯もあります。
三木谷氏が起業したキッカケは、1995年に起きた、阪神淡路大震災
というのは有名ですが、起業家マインドや起業へのネットワークを
急速に広げていったのは、ハーバード留学でした。
自分が留学し、英語を通して世界が広がった経験から、社員にも
世界観を広げて欲しいと社内での英語公用語化を進めました。
個人で当初、買収したJリーグのヴィッセル神戸のユニフォームを
白黒の縦縞から、クリムゾンレッドに変え、プロ野球の
楽天ゴールデンイーグルスのユニフォームと球団カラーも
クリムゾンレッドとし、ヴィッセル神戸の出資会社名を
クリムゾンレッドフットボールクラブとしているのはすべて、
留学したハーバード大学のスクールカラーが、クリムゾンレッド
だったことに起因します。
三木谷氏は、現在の日本の経営者の中で最も外国人経営者との
パイプを持つ人物と言われ、M&Aなどの情報やIT起業家との交流を、
シリコンバレーに居を構えることで実現しています。
本書を読んで、楽天の強みの1つとして面白かったのは、M&Aの記述です。
三木谷氏の頭の中では常に、かつてのシリコンバレーを代表する
ハイテク産業、サンマイクロシステムズの失敗があります。
サンマイクロシステムズのスコットマクノリーは、技術志向が強く、
事業の拡大志向が薄かったため、やがて埋没し、そしてオラクルに買収されます。
その事例が常に頭にあり、M&Aを伴う事業拡大に強い意識があります。
通常は買収には、投資銀行を使いますが、楽天の経営陣は興銀時代の仲間も多く、
ファイナンスに強く、三木谷氏自身も興銀時代は、M&Aの仲介を
本業としていたため、自前でM&Aを進められることが、
他社にはない強みとなっています。
本書を読んで、楽天の弱みの1つとして面白かったのは、
楽天の三木谷氏には、名参謀がいない、という記述です
本田宗一郎には藤沢武夫、松下幸之助には高橋荒太郎、
豊田英二には石田退三、と名経営者には名参謀がいました。
しかし、三木谷氏の側で活躍した人の多くは、三木谷氏の元を去っています。
この本では、参謀は三木谷氏の父親で経済学者であった、
故・三木谷良一氏であったとしていますが、楽天ゴールデンイーグルスが
日本一になり、楽天優勝セールの二重価格問題の渦中に、亡くなっています。
日本経済新聞の私の履歴書より、時代がリンクしているため
読みやすく、1日半で読みえ終えました。
最後に特に印象に残った3つの文章を記します。
#1
力のある人間は起業する。
起業する力のない人間が大企業での出世を目指す。
できあがった組織のなかで出世する人間より、
ゼロから価値を生み出す人間のほうが尊敬される。
#2
「成功のためこの5つのコンセプト」
常に改善、常に前進
Professionalismの徹底
仮説→実行→検証→仕組化
顧客満足の最大化
スピード!!スピード!!スピード!!
#3
「Get things done (やり切れ)」