コラム

半沢直樹とアインデンティティ

半沢直樹
「やられたら倍返しだ」――。

2年ほど前に、ドラマ「家政婦のミタ」が大ヒットし、最終回の平均視聴率が40%という驚異的な数字が、話題となりました。

そのとき、顧問先の脚本家の方が、言っていました。
「ドラマ離れ、TV離れ、が叫ばれる今の時代に、あれだけの視聴率を稼げる‘お化けドラマ’は、もう当分出てこないのでは、ないでしょうか。」

そして、2013年。
そのお化けドラマを超える「モンスタードラマ」が、同じTBSで放送されている、池井戸潤原作の「半沢直樹」です。

現在(2013.8.22時点)、第5話まで放送されていますが、初回を除き、家政婦のミタの平均視聴率を上回っており、破竹の勢いです。
平均視聴率をまとめてみました。

ファイル

このペースだと、最終回の平均視聴率が50%超える!?なんてことも、ありえるのではないでしょうか??
様々なメディアで取り上げられ、私の周辺でも、ドラマに関しては、この話題か、‘あまちゃん’が熱いです。

先日、ドラマの演出を手掛ける福澤克雄氏のインタビュー記事を3回くらい熟読しました。ドラマの演出家は、映画で言う監督という立ち位置であり、福澤氏は、実は知る人ぞ知る、稀代のヒットメーカーであったことに驚かされました。

また、福澤諭吉の玄孫(=やしゃご:孫の孫。ひ孫の子。)、という事実にも、違う意味でもっと驚かされました。

さらに驚いたのは、「半沢直樹」は、もともとこんなに当たると思っておらず、最終回で20%くらいいけばいいや、というノリで作られ、原作者の池井戸潤氏にも、「一生懸命作りますけど、たぶん当たらないですよ」と言っていたそうです。

「半沢直樹」には、登場人物に女性が少ない、わかりやすいキャラクターがいない、恋愛がない、というドラマのヒットの方程式からかなり逸脱した「ないないづくし」のドラマ。

そしてインタビューの次の言葉が、特に印象に残りました。
「最終的には、自分が面白いと思うものを作るしかないと思った…。」

二匹目のドジョウは、どこも狙うところであり、そこそこヒットはするでしょうが、大ヒットするには、やはり、「前例のないもの」、「今までにないもの」であることが大事と言えると思います。

たとえば、「ハリーポッター」や「チーズはどこへ消えた?」、「佐賀のがばいばあちゃん」などの大ベストセラーは、いろいろな出版社で断られ、「たらい回し」にされた作品だったことは有名。

ところで、マーケティング用語に「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という言葉があります。
マーケットインは、「消費者が求めるものを作る」という考え方で、消費者目線で市場調査などを行い、売っていくもの。
プロダクトアウトはその逆で、「売り手からどんどん消費者に良いものを提供し、売っていく」という提供者サイドの目線を重視した考え方になります。

日本では、常々、マーケットインが主流とされ、欧米ではプロダクトアウトの考えが一般的でした。GoogleやAppleなどが、「自分達が良いと思ったものを作って売っていく」というスタンスでいることは、まさにその典型です。

もっとも、作りたいものや提供したいものをビジネスとしてやっていくには、それまでに築いた実績や財務基盤などは欠かせませんし、また、自分自身の主張を通せるまでになるには、小さな成功体験の積み重ねなどは、求められてくると思います。

したがって、マーケットインをベースにはしつつも、これからは「自分達が良いと思ったものを作って売っていく」という提案&提供型のプロダクトアウトの発想が、よりキモになっていくように、このインタビュー記事を読んで感じました。

私の好きな漫画の1つに、みうらじゅん原作の「アイデン&ティティ」があります。その中で、主人公がこんな印象的な科白を吐きます。

“売れることをやりたいのと、やりたいことで売れるのは、まったく意味が違う。でも、今のボクはやりたいことで売れたいと、強く願っているのだ”

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